ネタバレを含むざっくりとしたあらすじ
任侠の一門に生まれた喜久雄(吉沢亮)は、抗争で父を亡くし、歌舞伎の名門の当主・花井半二郎(渡辺謙)に引き取られる。半二郎には喜久雄と同い年の息子、俊介(横浜流星)がおり、2人で切磋琢磨しながら歌舞伎を学んでいく。コンビの女形として注目を集めていく2人。しかし、半二郎がケガをし、急遽必要となった「曽根崎心中」の「お初」代役として指名したのは「血」の俊介ではなく、「芸」の喜久雄であった。喜久雄の舞台は鬼気迫るものがあり、舞台を途中で見ることができなくなった俊介はそのまま姿を消す。8年後、半二郎が「白虎」を、喜久雄が三代目「半二郎」を襲名することになるが、襲名披露公演で半二郎が倒れ、帰らぬ人に。その後、現れた俊介は今までの非礼を詫び、歌舞伎に復帰することになる。一方、自身が任侠の生まれであること、背中に入れ墨があること、隠し子がいること、そして三代目「半二郎」を俊介から奪ったことをスキャンダルとして掻き立てられ、「血」の後ろ盾がない喜久雄は半二郎亡き後、助けてもらえる人がいなくなり、セリフのある役も、もらえなくなっていった。起死回生を図ろうと歌舞伎役者・吾妻千五郎の娘に取り入ろうとするが、失敗。娘も勘当され、ドサまわりの日々が続く。その後、人間国宝、小野川万菊(田中泯)の助けにより俊介と女形のコンビを組めるまでに復活。順風満帆かと思われた矢先、俊介が糖尿病により片足を切断することとなる。「曽根崎心中」の「お初」をやりたいとう俊介に、相手役の「徳兵衛」は自分がやるという喜久雄。舞台で見た俊介の残った足にも壊死が出ていることを知った喜久雄は最後まで舞台を続ける。舞台後に俊介が亡くなってから16年後、人間国宝となった喜久雄は「鷺娘」を舞う。舞い終わった後には自分がずっとみたかった景色が広がっていたのであった。
歌舞伎に「魅入られた」人々
立花喜久雄→花井東一郎→三代目「半二郎」
美しい顔を持つ少年。九州の任侠「立花組」のご子息。父が抗争で亡くなった後、報復を行うが失敗し、半二郎のもとに身を寄せることになる。歌舞伎が楽しくて仕方がない。特に人間国宝、小野川万菊の「鷺娘」でみた「景色」を生涯探し求めることになる。自分を守る「血」がないことに苦しみながら、「歌舞伎が上手くなるように悪魔と取引した。歌舞伎以外何もいらない。」と娘も切り捨てる。干された時は、自分に好意を持っている歌舞伎役者の娘も利用する屑野郎。でも、どんなに身を落としても、歌舞伎からは離れられない。歌舞伎に心を奪われた男。
大垣俊介→花井半弥
半二郎の息子として生まれた歌舞伎界の「血」を継ぐプリンス。半二郎の代役で「お初」を演じる喜久雄が震えながら「俊介の血がほしい。俺には守ってくれる血がない。」と涙する姿に「芸があるやないか」とこちらも涙ぐみながら答える。でも喜久雄の姿を見続けることができず「逃げて」しまった。この挫折が彼を強くした。最後の舞台の「お初」は圧巻。舞台のために、命も捨てる。「こんな生き方はできない」と人々に思わせるほどに。
感想
日本一の歌舞伎役者になるために、すべてを捨て、捧げ、国宝となった一人の男の物語。圧倒された3時間でした。人間関係がとんでもなくドロドロしているのですが、それが全て舞台へと昇華されていく。歌舞伎役者の人が「芸のこやし」という文化を、なんというかものすごく納得して受け入れることができました。捨てられた娘が成長し、「父親なんて思ったことない。」と言いながら、「日本で一番の歌舞伎役者になったんやね。」と言う。「人間」としては決して褒められた生き方はしていない。色んなものを犠牲にして、周りを傷つけてきた。でも舞台では人を魅了してやまない。「国の宝」となるには、人間のままではたどりつけない。映画の最後、喜久雄は見たかった景色を見ることができた。でも、生きている限り、この景色を追い続けることになると思うと大変だよな~とも思う。人間国宝、小野川万菊が引退後、床にて、周りに綺麗なものがないことに「ホッとする。もういいんだよと言われている気がして。」が重い一言だなと思いました。「魅入られた」人生。面白かったです。
コメント