ネタバレを含むざっくりとしたあらすじ
小学校4年生の藤田は絵がうまいと自負していたが、不登校の京本の画力に圧倒され、人生初の劣等感と挫折を経験する。しかし、卒業証書の受け渡しにより出会った京本が、自分のファンであったことが判明し、自尊心が回復。2人で漫画家を目指す。やがて、世界が広がった京本が美大進学を目指したことで2人は袂を分かつことに。
それぞれの道を邁進する中、京本の命が理不尽に奪われてしまう。自分と出会わなかった世界の京本を想像するも、想像世界から「背中を見て」のメッセージ。京本の部屋で彼女の背中(行動)に変わらない自分への愛情・憧れを感じた藤田は、前へと歩み続けるのであった。
好きなシーン
道を行くシーン
京本の画力に打ちのめされた時、田んぼ道をがむしゃらに駆け抜ける藤田。京本にファンと告げられ、歓喜があふれ出て珍妙なステップで飛び跳ねる藤田。初めての合作漫画の結果を知るために雪道の中、手を取り合いながら歩く2人。藤田が導くように京本の手を握りながら疾走するが、いつしか離れていく手。そして、京本の部屋を出て、前を向いて歩いていく藤田の背中を見せるシーン。人生という道で、その時々の感情を瑞々しく感じる素晴らしい表現でした。
藤田の努力のシーン①
デッサンの本を買い、ひたすらスケッチブックに向き合う藤田。連なっていく教本、積み重なるスケッチブック。努力が質量として表され、これだけの「努力」を見せられた後に、どうしても京本に画力が追い付かないと悟った藤田が「やーめた」となるシーンは納得すると同時にものすごい切なさがこみ上げました。そしてその後に出てくる京本の「努力」である圧倒のスケッチブック数。この対比。この数に到底無理だと打ちのめされるのか、これだけ差があるから画力が違うのだ、自分もまだいけると思うのか。藤田は後者だったから、2人は合作漫画作れる関係になれたのだと思いました。
藤田の努力のシーン②
漫画家となり、上がり下がりのあるチャート。増えていく巻数。同巻の数の増減。(増版がかかったことを表すことは後で調べて知りました)。そして得る栄誉あるタイトル。セリフもなく描かれる藤田の様子。背中、トイレにこもる姿。努力を「魅せる」ではなく、「見せる」シーン。漫画が売れていく高揚感よりも藤田が追い詰められていく切迫感が勝る。感情が揺さぶられるシーンでした。
感想
その人がどう考え、どう感じたか。それを他者が見ることはできない。正解はその人にしかわからない。他者が見ることができるのはその人の背中(行動)だけである。
物語の終盤、京本が藤田と出会わなかった世界の様子が描かれる。私はこれを藤田の想像ととらえました。その世界でも京本は事件に遭遇するけれど、空手キック藤田に助けられやっぱり二人は出会う。そして京本からのメッセージ「背中を見て」から京本の部屋で彼女の背中(行動)を見るシーン。
藤田が京本の絵と出会い、劣等感を感じ「絵がうまくなりたい」と願ったように、京本は美しい絵に憧れて「絵がうまくなりたい」と願う。藤田にとっては京本の「憧れ」が別のところに移ってしまい、裏切られたように感じていたのではないだろうか。でも京本の憧れは、ずっとずっと大ファンなのは藤田であったことが示される京本の背中。特に半纏の「藤田歩」のサイン。
そこからずっと、藤田の背中が写される。エンドロール中も。
たまらない気持ちになりました。藤田はこれからも京本の背中を見ながら漫画を描き続けていくのだと私は思いました。頑張れ。頑張れって念を思わず送ってしましました。もちろん、彼女はずっと頑張っているし、面と向かっていうつもりはないんです。そして、この念は彼女に届かなくてもいいんです。
他者の私が彼女の背中を見て、感じた、思った、推し量った、ただそれだけの話ですから。
1時間という短い時間に凝縮された2人の背中。折を見て、何度も見返したい作品となりました。
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